火車 宮部みゆき 新しいページはコチラ

提供: yonewiki
移動: 案内, 検索
(続き)
(続き)
85行: 85行:
  
  
 自分の立ち位置を確かめたい喬子は確かめた。だが、こずえが口を開く前に保が口をきる。
+
 自分の立ち位置を確かめたい喬子には必要な事だった。だが、こずえが口を開く前に保が口をきる。
  
  
94行: 94行:
  
  
自分の立ち位置を把握した喬子は脱力し、椅子の背もたれに身体を預けた。もう駄目だ。全てが終わる。私の命はもう無い。そういう事なんだと、そこまで喬子は思い直していた。だが、その意表をつくるような言葉が保から投げかけられる。
+
自分の立ち位置を把握した喬子は脱力し、椅子の背もたれに身体を預けた。もう駄目だ。全てが終わる。私の命はもう無い。無期懲役か死刑だ。そういう事なんだと、そこまで喬子は思い直していた。だが、その意表をつくるような言葉が保から投げかけられる。
  
  
100行: 100行:
  
  
 彼らのテーブル近づきかけていた碇は近くのテーブル席に腰を下ろした。彼らから5メートルくらい離れた場所だ。ウェイトレスは席を移動したのかと感じたらしく水を持ってきたり、注文を受けに行くことはなかった。碇が注文した飲み物が遠くのテーブルに置きっぱなしになっていることが気がかりになっている様子に見えた。彼らが碇の動きに気を止める様子は無かった。
+
 彼らのテーブルに近づきかけていた碇は近くのテーブル席に腰を下ろした。彼らから5メートルくらい離れた場所だ。ウェイトレスは席を移動したのかと感じたらしく水を持ってきたり、注文を受けに行くことはなかった。碇が注文した飲み物が遠くのテーブルに置きっぱなしになっていることが気がかりになっている様子に見えた。彼らが碇の動きに気を止める様子は無かった。碇は会話の様子が聞き取れる位置で見守ることにしたのだった。
  
  
112行: 112行:
  
  
 保が言う
+
 長い沈黙の後、保が言う
  
  
130行: 130行:
  
  
喬子は安堵した。まだ警察にはバレていないのだと。新城喬子は警察からは追われていない。かもしれない。だが彼は知人としてと言っている。本来は違う立場も持っているという事か。まさか関口彰子が自己破産しているとは思いもよらないことだった。喬子自身が一番嫌な過去だ。借金を踏み倒すような人間の身分なんて嫌よ。そう思うとすぐさま次の人間に目星を付けたのだった。可笑しな話だ。殺人をする様な人間はもっと嫌だったはずなのに。
+
 喬子は安堵した。まだ警察にはバレていないのだと。新城喬子は警察からは追われていない。かもしれない。だが彼は知人としてと言っている。本来は違う立場も持っているという事か。まさか関口彰子が自己破産しているとは思いもよらないことだった。喬子自身が一番嫌な過去だ。借金を踏み倒すような人間の身分なんて嫌よ。そう思うとすぐさま次の人間に目星を付けたのだった。可笑しな話だ。殺人をする様な人間はもっと嫌だったはずなのに。
  
  
154行: 154行:
  
  
新城喬子の殺人犯の着ぐるみを着ただけの喬子は他人事のようだった。
+
 新城喬子の殺人犯の着ぐるみを着ただけの喬子は他人事のようだった。それからまた長い沈黙が訪れた。
  
  
「変わりましたね。新城さん。あなたそんな人じゃ無かったはずだ。それがどうして…」
+
 保は言葉を捻り出そうとしていた。
 +
 
 +
 
 +
「変わりましたね。新城さん。あなたそんな人じゃ無かったはずだ。悔い改める様な人だったはすなのに、それがどうして…」
  
  
166行: 169行:
  
  
「自分から全部話してくれると思ったんだけどな。簡単じゃないか。この人はもう何かに乗っ取られてるな。」
+
「自分から全部話してくれると思ったんだけどな。簡単じゃないか。思い違いでした。」
 +
 
 +
 
 +
 そう言うと保は立ち上がった。碇に選手交代のつもりだった。一方で喬子は驚いた。解放してくれるのかと思った。喬子に背を向けた瞬間だった。彼女は物凄い勢いでイタリアンレストランの出入り口に向かって駆け出していた。
  
  
 そう言うと保は立ち上がった。喬子は驚いた。解放してくれるのかと思った。喬子に背を向けた瞬間だった。彼女は物凄い勢いでイタリアンレストランの出入り口に向かって駆け出していた。
+
 喬子が立ち上がった反動で座っていた椅子は倒れた。安定するまで何度か寝返りを打つかの様にのたうち回る椅子。椅子が止まりきる前につぎは駆け抜けていったさきのホールの出入り口にあったテーブルの角に喬子がぶつかった為、テーブルがグググとスライドした。碇と本間はレストランの入り口へとあらゆる障害を乗り換え
 +
直進した早かった。パルクールのという街中の障害物を掻き分け駆け抜けていく競技の選手さながらの動きだった。保は一瞬のことで呆気にとられていた。
  
  
喬子が立ち上がった反動で座っていた椅子は倒れた。安定するまで何度か寝返りを打つかの様にのたうち回る椅子。椅子が止まりいる前につぎは駆け抜けていったさきのホールの出入り口にあったテーブルの角に喬子がぶつかった為、テーブルがグググとスライドした碇と本間はレストランの入り口へとあらゆる障害を乗り換え
+
 喬子は本間に取り押さえられていた。レストランが騒然となった。本間は足を痛めていることを忘れて走ったせいか、酷く痛がっていたが、がっちりと喬子を、抱えていた。捕まえられた喬子は抵抗はしていなかった。ほんとうに見張られているのか半信半疑で逃げ出したが、嘘では無かった事を受け止めている様だった。
直進した早かった。パルクールのという街中の障害物を掻き分け駆け抜けていく競技の選手さながらの動きだった。
+
  
  
 喬子は本間に取り押さえられていた。レストランが騒然となった。最後の最後も彼女は逃げる事を選んだ。日本の制度に彼女を助ける制度がなかったのだ。だから逃げて逃げて逃げまくった。そう言う事なのだろう。
+
 最後の最後も彼女は逃げる事を選んだ。日本の制度に彼女を助ける仕組みがなかったのだ。だから逃げて逃げて逃げまくった。そう言う事なのだろう。保はやはり気の毒な思いだった。しぃちゃんは日本の社会が作り出した悪魔に連れ去られた。そういうことを確認出来たのだ思った。それを目の当たりにした。それと同時に悪い事をしたと発した喬子の言葉の意味の広さを感じていた。殺さなくてもよかったのになのか、殺すしか無かったのか。自分からは語らない、彼女の意志の硬さに気が付いたから降参した。取り調べ室の様なところでみっちり聴かないと拉致があかない。碇さんや本間さんに喬子の想いをこの場で引き出してもらいたかったが、自分の油断がこの様な結果を招いてしまった。平たく言えば失敗だ。
  
  
この後、彼女は本間達に連れられ警察署へ向かった。膨大な状況証拠によって全ての犯罪を詳らかにしてゆく予定だと言う。
+
 この後、彼女は本間達に連れられ警察署へ向かった。膨大な状況証拠によって全ての犯罪を詳らかにしてゆく予定だと言う。
  
 
 
 
 

2021年11月1日 (月) 00:00時点における版



個人用ツール
名前空間

変種
操作
案内
ツールボックス