火車 宮部みゆき 新しいページはコチラ

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 喬子は彰子名乗っている時は不思議と優しい気持ちに慣れた。派手な職業ではあったが人柄の良さに包まれて生きる事が出来た。それがまさか自己破産しているとは、あの日以来、関口としての視点を捨てていた。
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 喬子は彰子と名乗っている時は不思議と優しい気持ちに慣れた。派手な職業ではあったが人柄の良さに包まれて生きる事が出来た。それがまさか自己破産しているとは、あの日以来、関口としての視点を捨てていた。
  
  
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そう口にしていた。もっと早くに自己破産の事を知っていたら殺す必要も無かったそんな思いだ。ふざけている思考だ。
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そう口にしていた。もっと早くに自己破産の事を知っていたら殺す必要も無かったそんな思いだ。ふざけている思考だ。まるで新城は私とは関係ありませんというような感触だ。そう新城はもう壊れていた。完全崩壊だ。人間の形をした鬼になっていた。火の車の運転を自由自在に操る。新城喬子の中に人の形は残っていない。この美しい顔からは想像し難いほど醜悪な思考回路を備え付けている。間合いをたっぶり取った保が聞く。
  
  
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「申し訳ない事ってどんな事?」
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え?この人申し訳ない事の中身を知らないの?嘘でしょ!
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「分かりません」
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新城喬子の殺人犯の着ぐるみを着ただけの喬子は他人事のようだった。
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「変わりましたね。新城さん。あなたそんな人じゃ無かったはずだ。それがどうして…」
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保は残念そうに声を上げた。保は新城喬子のことを呼ぶ二人称、三人称がバラバラになっていた。喬子の中の人格が見つからないのに似ていた。いや、本当に人格が無かった。
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それにしても、この男は私の何を知っていると言うのかと喬子は思った。自分でさえ見失いつつある自分の何を。
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「自分から全部話してくれると思ったんだけどな。簡単じゃないか。この人はもう何かに乗っ取られてるな。」
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 そう言うと保は立ち上がった。喬子は驚いた。解放してくれるのかと思った。喬子に背を向けた瞬間だった。彼女は物凄い勢いでイタリアンレストランの出入り口に向かって駆け出していた。
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喬子が立ち上がった反動で座っていた椅子は倒れた。安定するまで何度か寝返りを打つかの様にのたうち回る椅子。椅子が止まりいる前につぎは駆け抜けていったさきのホールの出入り口にあったテーブルの角に喬子がぶつかった為、テーブルがグググとスライドした碇と本間はレストランの入り口へとあらゆる障害を乗り換え
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直進した早かった。パルクールのという街中の障害物を掻き分け駆け抜けていく競技の選手さながらの動きだった。
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 喬子は本間に取り押さえられていた。レストランが騒然となった。最後の最後も彼女は逃げる事を選んだ。日本の制度に彼女を助ける制度がなかったのだ。だから逃げて逃げて逃げまくった。そう言う事なのだろう。
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この後、彼女は本間達に連れられ警察署へ向かった。膨大な状況証拠によって全ての犯罪を詳らかにしてゆく予定だと言う。
  
 
 
 
 

2021年11月1日 (月) 00:00時点における版



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