火車 宮部みゆき 新しいページはコチラ
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知らない内に沼に放り込められてしまうことだってあるという社会的不備は今も健在で、このような状態からどういった悲しい物語が生まれるのか?知っておくべき現実と共に詳らかにされていく至極のミステリー。 | 知らない内に沼に放り込められてしまうことだってあるという社会的不備は今も健在で、このような状態からどういった悲しい物語が生まれるのか?知っておくべき現実と共に詳らかにされていく至極のミステリー。 | ||
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+ | === '''続き''' === | ||
+ | 作品の最後はぶっつりと終わる。あとはもう分かるよねって感じです。だからこんな感じかなってことを書き留めてみようと思います。 | ||
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+ | 時間なら、充分にある | ||
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+ | 新城喬子ーー | ||
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+ | その肩に今、保が手を置く。 | ||
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+ | 喬子は、予想していなかった。あまりに突然のことで、身体中に何か分からない無数の反射が起きた。熱いヤカンに手が触れたときのようなそれだ。 | ||
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+ | 振り返りぎょっとした目で喬子は保に視線を送る。瞬間、喬子は安堵した表情に戻るのが、少し離れたところにいた本間には分かった。保は警官とか刑事のような仕事をしているようには見えないからだろう。 | ||
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+ | 「なんですか急に。人違い…」とそれくらいまで喬子が言葉を発した所で、保は遮るように言った。 | ||
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+ | 「これ以上はもう先には行けない。終着点に辿り着いたんだ。貴方も僕も」 | ||
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+ | 喬子は暫く保の顔を見て固まっていた。この言葉の意味を理解するには時間がかかったのだ。まさか、こんなところで唐突に終わりが来るとは思って居なかった。それくらい喬子には自信があった。まだまだ私は変わっていける。人生を好転させられる。ほんの少し平均値に近づけられる。ほんの少しだ。それくらい許されるはずだ。だから、目の前にいるこの男が何か支離滅裂な間違いを犯しているとしか思えない。その思考の外側に出られないでいた。その沈黙を破るように保は続けた。自分が言葉を発したタイミングで放たれた喬子の言葉尻を解釈して、言い方を改める方が早かった。保の思考は喬子の一つ先を歩いている。それくらい喬子は疲れていた。全てに。 | ||
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+ | 「人違いじゃない。俺は貴方が誰だか分かって言っている。探し続けていたんだ。君を」 | ||
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+ | 保は続ける。 | ||
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+ | 「あんたは新城喬子だ。そして、少し前までは、関根彰子だった。違うかい。」 | ||
+ | 「あなた誰?」喬子は平静を装う最後の言葉になりかけていた。椅子をひいて立ち上がれる体勢を整える。 | ||
+ | 「俺は関根彰子さんの知り合いだ」保はテーブルの横の使われていなかった椅子をひいて座った。喬子は、あぁこの人は警察関係の人では無いんだと思うと、まだ何もかもが明らかにされている訳ではないのかも知れないと思った。そう思うと少し余裕を感じた。だが、一刻も早くこの場を離れたいという思いが強くなった。誰にも知られてはいけない事が多過ぎた。 | ||
+ | 「あんた、もう逃げられないぞ。俺の仲間が出入り口を見張ってる。」 | ||
+ | このとき喬子は、いつでも立ち上がれる姿勢から緊張が解けた。椅子に深く腰がおりていく。逃げる事は出来ない。話を聞いて、目の前の男とその仲間にわからせないと解放されないのだと思った。目の前の男がどこまで知っているのか不安な気持ちになった。 | ||
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